スイトピー〜優しい想い出〜 「かずにい、あのね」 あの夏の日、俺と啓太は出会った。 いつものように読書に出かけたあの木陰で… 気がつくと遠巻きにしてちびっこいのがこちらをちろちろうかがっている。 見かけない子だと思ったが、その時の俺は他人に全く興味がなかった。 少しずつ近づいてくる様子に俺に気がつかないようにというより無視してたっけ。 「あの…ねぇ?おにいちゃん、なに…よんでるの?」 「ケインズって人の本」 「けいんず?それっておもしろい?」 「ううん、つまんない」 「どうして、つまんない…のによんでるの?」 「読めって言われたから…」 将来鈴菱を背負ってたつために子供らしいことは一切させてもらえず、それが当然だと思って今までやってきた。 いろいろな課題、それをそつなくこなす俺は物わかりのいい子供だったのだと思う。 それなのに突然の小さな来訪者の出現によって、今までの考えは一変した。 全く相手にしていないのに俺に必死で話しかけてくる啓太。 そして突然言われた言葉に 「ねぇ、おにいちゃん……さみしいの?」 「…どうしてそう思うんだ?」 動揺をかくしながら、たずねてみる。 そうお前の言うとおり俺はきっとさみしかったんだ。 仕事が忙しくあまり顔を見せることのない父とその父にともなって各地を飛び回っている母。 唯一俺のそばにいてくれるのは大好きな祖父だった。 啓太は母親の出産のためにお祖父ちゃん家に預けられていて、友達と遊べないとがさみしいといった。 『ともだち』…俺にはそう呼べる友達がいただろうか? 一瞬泣きそうな顔をした啓太をみていたら、自然と口をついてでた。 その言葉に一番驚いたのは俺自身だった。 「だったら、俺といっしょに遊ぼうか?」 「えっ?いいのっ?」 「うん。本は、いつでも読めるから」 「やったぁ!ね、なにしてあそぶ?」 お日様のように輝く笑顔が満開となる。 「お前、名前は?」 「けいたっ。いとうけいたっ」 「俺は、和希」 「かずきおにいちゃん、かずきおにい…かずにいって呼んでいい?」 その日から俺たちは毎日のように遊んだ。俺の話にきらきらとした輝かせた瞳で 今までこんなに遊んだことはなかったな。 ******* 今はこの腕の中に… 俺の腕の中で眠っている最愛の人…そっと明るい色のくせっけの髪に触れてみる。 もう二度と離したくない… 「…う…ん…ううん…かずき!?」 「あっ、ごめん。啓太。起こしちゃったか?」 「ううん、そんなことないよ…和希、もしかして何か考えてた?」 啓太はあの頃と変わらず曇りのない瞳で俺を見つめてくれている。 「ああ、啓太と初めて逢った時のこと…俺にとっては大事な想い出、今でも色鮮やかに覚えてるよ。 あの時の啓太は必死だったよな。 無視し続けてる俺に一生懸命話しかけて… 普段の俺ならうるさいって思ったのに、なぜか啓太の言葉は俺の中にすっと自然に入ってきて… 今ならわかるよ」 「和希、俺、最近思い出したことあるんだ… 和希、ううんカズ兄と初めてあった時、なぜか俺、この人を守らなくっちゃって思ったんだ。 おかしいよな、俺のほうが小さいのに…。 だけど本当にそう思ったんだ。 あの頃の和希、とってもさみしそうに思えて…」 「啓太、俺はいつでもお前に守られてるよ。 あの時から今まで俺の心を守ってくれたのはお前だよ。 お前がいたから俺は強くなれた。 どんなことがあってもお前を守りたいと思ったら乗り越えられた。 そんな俺の心を守ってくれていたんだよ」 「でも俺、カズ兄のこと、すっかり忘れちゃってたから…ごめん。 和希、和希がそんなに俺のこと思っていてくれてたのに…」 申し訳なさそうにしゅんとなる啓太。 「しかたないさ、あの時はまだ啓太は小さかったし… でも今はちゃんと俺の腕の中にいてくれる。…ということで…なっ!」 「…って『なっ!』…ってなんだよ…ちょっと…ちょっとだけ待って…」 啓太は俺の腕の中で必死に抵抗している。 「…うう…なんでだよ…啓太」 「ホントに…ちょっとだけだからあと少しだけ待って…な、お願いだから…」 大きな瞳でお願いモードの啓太は可愛くて俺は本当に我慢できなくなりそうだった。 「そんな、顔でお願いされると逆効果なんだけど…なんで…あと少しなんだ!?」 そんなやりとりを繰り返していると、突然啓太の携帯のアラームが鳴り響いた。 「ハッピーバースデー!!和希」 あの頃のようにきらきら輝く笑顔で俺にお祝いの言葉をくれる啓太。 「えっ!?あ、ありがとう、啓太。もしかして…俺の部屋に泊まりにきたのって…」 「うん、一番最初に和希にお祝い言いたかったんだ。そうしたらこの方法しかないだろ。 よかった寝過ごさないで…俺ってアラーム鳴らしてても起きない時あるから…」 啓太は大仕事を終えたときのようにほっと一息ついて、満足げにわらっている。 俺にハッピーバスデーというために今まで抵抗していたと知って、 今まで以上に啓太が愛しく思えた。 「けいた、嬉しいよ。本当に今までで一番嬉しい言葉だ」 「よかった、和希が喜んでくれて、気がつくんじゃないかとドキドキしてたんだけど… 和希、自分の誕生日は気にしてない様子だったら… でところで和希、今日でいくつになったんだ。 バースデーケーキにろうそくたてるときにわかんないと困るだろ…」 またその話題かと思ったが啓太が知りたがっているのはわかっていたけれど、 本当のことを言うつもりは今のところない。いずれはと考えてけど… でもまだこのままでいいかなと勝手に思っている。 「いくつって、啓太と同じ歳に決まってるだろ。 俺たち同級生だし…でプレゼントは何くれるのかな?俺としては…」 「…か、和希。本当の歳を教えてくれないと…プレゼントはなしだからな。絶対ダメだからな」 歳を教えてくれなきゃダメって必死で抵抗している啓太。 そんな啓太が一層可愛く思えて…大人のずるさを使って啓太の抵抗をやめさせようと考えた。 「じゃあ、啓太より年上ってことで、ウソはいってないぜ。なっこれでいいだろ」 「…うっ、和希ずるい…そんなの答えになって…」 啓太の言葉は口づけで遮って、それから俺たちは甘〜い時間を過ごした。 『愛してる、啓太。もう絶対離さないから…』 【有希さんのコメント】 和希BD記念に書きました。ありきたりのシチュエーションですみません。 リミッターの弱い和希がどうも好きのようです…汗。 |
「bluefantasy」様のサイトオープン記念でフリー配布されていたのを頂いてきました。
リミッターの弱い和希、私も好きです(笑)