★背中合わせの距離で★


「妬ける?」
「えっ」
 松岡の言葉に、啓太が顔を上げる。
「遠藤くんが伊藤くんにではなく、僕に色々相談したり知らない顔をするのが妬けるかい?」
「それって…俺が嫉妬してるってことですか?」
「簡単に言えばそうだね」
「………」
(嫉妬?俺が松岡先生に?)
 それは今まで考えたことがなかった。
(それって…)
 親友として対等でいたいなら、そう思うことはないだろう。相手は大人で、教師でもあるのだから…
(俺…)
「…戦闘機の」
 考え込んでしまった啓太に、松岡が話し始める。
「飛行テクニック…アクロバット技かな?にバックトゥバックというのがある」
「?」
 それは全く関係がない話のようにも感じるが…
「バックトゥバック…背中合わせという意味なんだけどね」
「背中合わせ…」
「その名の通り、2機の戦闘機が背をぶつからないギリギリまで合わせて飛行するんだ」
「それって、もの凄く難しいんじゃ…」
「ああ。ほんの少しズレただけでぶつかるし、高速で飛行しているからね、ぶつかれば下手をすれば爆発する。かといって速度を落とせば失速して墜落してしまう」
「…それじゃ、上になる方はもの凄く大変ですよね」
「そうだな。上になる者はずっと背面飛行になるからね。宙吊りの状態で操作しなければならない。でも…」
 松岡が言葉を切って、啓太を見る。
「テクニックも必要だけど、この技で一番大事なことは互いを信頼するということだ」
「信頼…」
「下になる者はただ相手が近付くのを待っていればいい訳じゃない。機体がブレてしまわないように、その姿勢を保ったままでいなければならない。1ミリ操縦桿を動かしただけで、かなり傾いてしまうからね、相当な精神力が必要になる。そして、相手を信頼して近付くのを待つんだ」
「信頼して待つ…」
 松岡が何故、この話を始めたのか何となく分かった。
 自分と和希に重なる部分があるからだろう。
「君は、和希くんとそうなりたいと思ってるんじゃないのかい?」
「え?」
「信頼し合って、互いに背中を預けることの出来る関係になりたいんじゃないのかい?」
「あ…」
(そうか…肩を並べるんじゃなくて、背中を預けてもらえるようになりたいんだ…)
 松岡の言葉に、啓太はようやく自分の心が見えてきた。
「今の君たちは背中合わせにはなっているけれど、間があきすぎてバックトゥバックとは呼べないって感じだね。上にいる和希くんが近づけずにいるって感じだ」
「そう…ですね」
(やっぱり和希の方が能力が上で、俺は信頼されていないんだな)
「…和希くんが君よりも能力が上なのは仕方がないよ」
 啓太の心を読んだかのように、松岡がそう言った。
「君に能力がないという訳じゃない。和希くんは恵まれた環境で、トップになる人間として教育されてきたんだから差があるのは仕方がないんだよ」
「そういえば…和希の家は会社経営をしてるって…」
 よく家の用事でいなくなる和希に、何度か聞いたことがあった。
 中々話してはくれなかったが一度だけ、小さな会社をやっていて、人手が足りなくて呼び出されるんだと話してくれた。
「そして、和希くんが君に近づけないのは信頼してないんじゃなくて、近付き過ぎて君を傷つけてしまうことを恐れているからなんだよ」
(え?)
 その言葉に、啓太が少し驚いたように松岡を見た。
(和希が怖がってる?)
「それって…どういうことなんですか?」
「それは、僕の口からは言えないよ。本人から聞いたわけじゃなくて僕の憶測だしね。そういうことは自分で答をみつけなきゃならないんじゃないかな?和希くんに直接聞いてもいいしね」
「そうですよね。そんなことを他人に頼るようじゃ、和希に背中を預けてもらうなんて永遠に出来ないですね」
 言って、啓太が笑う。
 明るくなった啓太の顔を見て、松岡も笑みを浮かべる。
「そうそう。前向きなのは君の長所だからね。そうやって明るく前を見つめていれば、おのずと道は開けると思うよ。和希くんの為にも、君には揺らぐことなく自分の道を進んでほしい」
「松岡先生…」
 松岡なりに啓太を心配してくれていることを感じ取って、胸が温かくなったような気がする。
(…あれ?)
 そして、あることに気が付いた。
「松岡先生…」
「何だい?」
「さっきから和希のこと…遠藤くんじゃなくて和希くんって…」
 初めは確かに遠藤と呼んでいた。それが今は和希になっている。
「ああ、話に夢中で気付かなかったよ」
「もしかして、知り合いなんですか?」
「僕は和希くんの家庭教師だったんだ」
「家庭教師!?」
「そう。これが、和希くんが僕のところに来る理由」
「………」
(そうか。だから…和希のことを色々知ってたんだ)
「安心した?」
 笑いながら松岡が言った。
「な、何言ってるんですか!別に…元々気にしてなんか…」
 そう言いながらも、啓太の顔は真っ赤になっていて、松岡の言葉を肯定していた。
「そ、それじゃ、俺、帰ります」
「ああ、気をつけて」


(中盤より抜粋)


和啓なのに和希が出ていない部分って、どうよ(苦笑)
こっちもどこを載せるか悩んだんですよね…
もうひとつの方が短いのでこっちは少し長め。
それでも、これだけなんですけどね6(⌒〜⌒ι)
こちらはアニメヘヴンが元になってますが、かなり変えていたりします(笑)

もうひとつのお試し『小さな幸せ』は思いっ切り短いですが、
気が向いたら読んでやって下さいませ。


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